御書研鑚の集い 御書研鑽資料
小乗大乗分別抄(下)
【此等は他師の事なればさてをきぬ。】
これらは、天台宗以外の諸宗派の師のことなので、ここでは、さて置くとします。
【又自宗の学者、天台・妙楽・伝教大師の御釈に迷ふて、】
天台宗の学者が、天台大師、妙楽大師、伝教大師の解釈や説明書に迷って、
【爾前の経々には二乗作仏・久遠実成計りこそ無けれども、】
爾前の経々には、二乗作仏・久遠実成だけは、説かれていないけれども、
【余界の得道は有りなんど申す人々一人二人ならず】
二乗以外の得道は、書いてあるなどと主張する人々が、一人や二人だけではなく
【日本国に弘まれり。他宗の人々是に便〔たよ〕りを得て】
日本国に広まっており、他宗派の人々は、このことを頼みの綱として、
【弥〔いよいよ〕天台宗を失ふ。】
いよいよ、天台宗を滅ぼそうとしているのです。
【此等の学者は譬へば野馬〔とんぼ〕の蜘蛛〔くも〕の網にかゝり、】
これらの学者は、たとえば、トンボが蜘蛛の巣の網に掛かり、
【渇ける鹿の陽炎〔かげろう〕を】
喉〔のど〕が渇〔かわ〕いた鹿が陽炎〔かげろう〕を、
【お〔逐〕ふよりもはかなし。】
水だと思って追いかけるよりも、意味のない、はかない行為なのです。
【例せば頼朝の右大将家は泰衡〔やすひら〕を打たんがために、】
例えば、右大将・源頼朝〔よりとも〕は、藤原泰衡〔やすひら〕を討ち滅ぼす為に、
【泰衡を狂〔たぶら〕かして義経を打たせ、】
泰衡〔やすひら〕を騙〔だま〕して義経〔よしつね〕を討たせ、
【大将の入道清盛は源氏を喪〔ほろ〕ぼして世をとらんが為に、】
太政大臣・平清盛〔きよもり〕入道は、源氏を滅ぼして天下を取る為に、
【我が伯父平馬介〔へいまのすけ〕忠正〔ただまさ〕を切る。義朝〔よしもと〕は】
伯父の平馬介〔へいまのすけ〕忠正〔ただまさ〕を斬り、源義朝〔よしとも〕は、
【たぼら〔誑〕かされて慈父為義〔ためよし〕を切るが如し。】
さらに騙されて、慈父の為義〔ためよし〕を殺したようなものなのです。
【此等は墓〔はか〕なき人々のためしなり。天台大師法華経より外の経々には】
これらは、はかなき者達の前例です。天台大師が法華経より他の経々には、
【二乗作仏・久遠実成は絶えてなしなんど釈し給へば、】
二乗作仏・久遠実成は、全く説かれていないと解釈されたことから、
【菩薩の作仏、凡夫の往生はあるなんめりとうち思ひて、】
菩薩の成仏と凡夫の往生とは、法華経以外の余経でも可能であると思って、
【我等は二乗にもあらざれば爾前の経々にても得道なるべし。】
我々は、二乗ではないから、爾前の経々でも得道できるに違いないと
【此の念〔おも〕ひ心中にさしはさめり。】
心の中で思い込んでしまったのです。
【其の中にも観経の九品往生はねが〔願〕ひやす〔易〕き事なれば、】
その中でも、観無量寿経の九品〔くほん〕往生は、願いやすいことから、
【法華経をばな〔投〕げすて、念仏申して浄土に生まれて、】
法華経を投げ捨て、念仏を称〔とな〕えて浄土に生まれ、
【観音・勢至・阿弥陀仏に値ひたてまつりて成仏を遂ぐべしと云云。】
観音菩薩、勢至菩薩、阿弥陀仏に会って、成仏を遂〔と〕げようとしているのです。
【当世の天台宗の人々を始めとして諸宗の学者かくのごとし。】
現在の天台宗の人々をはじめとして諸宗派の学者は、全て、このようであるのです。
【実義をも〔以〕て申さば、一切衆生の成仏のみならず、】
実際の話に従っていうならば、一切衆生の成仏ばかりでなく、
【六道を出で十方の浄土に往生する事はかならず法華経の力なり。】
六道を離れて十方の浄土に往生することも、必ず法華経の力によるのです。
【例せば日本国の人唐土〔もろこし〕の内裏〔だいり〕に入らん事は、】
例えば、日本国の人が、中国の宮廷の中に入ろうとするならば、
【必ず日本の国王の勅定によるべきが如し。】
必ず日本国王の天皇の命令によらなければならないようなものなのです。
【穢土〔えど〕を離れて浄土に入らん事は必ず法華経の力なるべし。】
穢土を離れて浄土に入ることは、必ず法華経の力によらなければならないのです。
【例せば民の女〔むすめ〕乃至関白大臣の女に至るまで、】
例えば、一般の民衆の娘であっても、関白大臣の娘であっても、
【大王の種を下〔お〕ろせば其の産める子王となりぬ。】
大王の子供を懐妊すれば、その娘が産んだ子供が王となるのであり、
【大王の女なれども臣下の種を懐妊〔かいにん〕せば】
たとえ大王の娘であったとしても、家臣の子供を懐妊すれば、
【其の子王とならざるが如し。】
その子は、王とならないようなものなのです。
【十方の浄土に生まるゝ者は三乗・人・天・】
要するに十方の浄土に生まれる者は、王族であり、菩薩や縁覚・声聞の三乗、人天、
【畜生等までも皆王の種姓と成りて生まるべし。】
畜生までもが、皆、王の身分となって、生まれることができるのです。
【皆仏となるべきが故なり。】
それは、皆、法華経の力によって、仏と成ることができるからなのです。
【阿含経は民の女の民を夫〔おとこ〕とし、華厳・方等〔ほうどう〕・般若等は】
阿含経は、民衆の娘が民衆を夫としたようなものであり、華厳・方等・般若経等は
【臣の女の臣を夫とせるが如し。又華厳経・方等・般若・】
家臣の娘が家臣を夫としたようなものであり、華厳・方等・般若・
【大日経等の円教の菩薩等は王女の臣下を夫とせるが如し。】
大日経等の円教の菩薩などは、大王の娘が臣下を夫としたようなもので、
【皆浄土に生まるべき法にはあらず。】
これらは、皆、浄土に生まれることができない法であるのです。
【又華厳・阿含・方等・般若等の経々の間に六道を出づる人あり。】
また、華厳・阿含・方等・般若などの経々で、六道を出る人もいますが、
【是は彼々の経々の力には非ず。過去に法華経の種を殖〔う〕えたりし人、】
これは、それぞれの経文の力ではなく、過去に法華経の仏種を植えた人が、
【現在に法華経を待たずして機すゝむ故に、爾前の経々を縁として、】
現在において法華経を待〔たも〕たなくても、機会が重なって爾前の経文を縁として
【過去の法華経の種を発得〔ほっとく〕して成仏往生をと〔遂〕ぐるなり。】
過去の法華経の仏種によって修行が進み、最終的に成仏・往生を遂げた姿なのです。
【例せば縁覚の無仏の世にして飛花〔ひけ〕落葉〔らくよう〕を観じて】
例えば、縁覚が仏がいない世に生まれて、花や葉が飛び落ちる姿に無常を観じて
【独覚〔どっかく〕の菩提を証し、孝養父母の者の梵天に生まるゝが如し。】
独覚の菩提を証得したり、親孝行をした者が梵天に生まれるようなものなのです。
【飛花落葉・孝養父母等は独覚と梵天との修因にはあらねども、】
飛花落葉〔ひけらくよう〕や親孝行は、独覚や梵天に生まれる因ではありませんが、
【かれを縁として過去の修因を引きおこし、彼の天に生じ】
それらを縁として、過去の因を引き起こし、梵天〔ぼんてん〕に生まれたり、
【独覚の菩提を証す。而〔しか〕るに尚〔なお〕過去に小乗の】
独覚が菩提〔ぼだい〕を証得したりするのです。そうであるのに過去に小乗教の
【三賢四善根にも入らず、】
法華玄義にある、声聞の七賢のうちの三賢や四善根の位にも入らず、
【有漏〔うろ〕の禅定〔ぜんじょう〕をも修せざる者は、】
有漏の禅定をも修めなかった者は、
【月を観じ花を詠〔えい〕じ孝養父母の】
たとえ月を観て、花を詠〔よ〕んだとしても、父母に対して孝行の誠を尽くし
【善を修すれども、独覚ともならず色天にも生ぜず。】
善行を修したとしても、独覚ともならず、色天にも生まれないのです。
【過去に法華経の種を殖えざる人は、】
それと同じように、過去において法華経によって、仏種を植えなかった者は、
【華厳経の席に侍〔はべ〕りしかども初地初住にものぼ〔登〕らず、】
華厳経の会座〔えざ〕に列〔つら〕なっても、初地・初住位にも上らず、
【鹿苑〔ろくおん〕説教の砌〔みぎり〕にても見思〔けんじ〕をも断ぜず、】
鹿野苑〔ろくやおん〕の説法の時にも、見惑・思惑を断じることもできず、
【観経等にても九品の往生をもとげず、但〔ただ〕大小の】
観無量寿経でも九品の往生をも遂げられず、ただ大乗・小乗教の
【賢位〔けんい〕のみに入って】
法華文句記第四巻下にあるように、無漏智の賢位までには、上がれるのですが、
【聖位〔しょうい〕にはのぼらずして、法華経に来たって始めて】
聖位には、上れず、法華経の説法の会座にきて初めて、
【仏種を心田〔しんでん〕に下して、一生に初地初住等に登る者もあり、】
仏種を心田に植えて、一生の間に初地・初住などの位に上がる者もあり、
【又涅槃の座へさがり乃至滅後未来までゆく人もあり。】
また、仏の涅槃の会座に下がり、さらに仏の滅後、未来まで行く者もあるのです。
【過去に法華経の種を殖えたる人々は、結縁〔けちえん〕の厚薄に随って、】
それに対し、過去に法華経の仏種を植えた人々は、結縁の厚薄にしたがって、
【華厳経を縁として初地初住に登る人もあり、】
華厳経を縁として初地・初住の位に登る者もあり、
【阿含経を縁として見思〔けんじ〕を断じて二乗となる者もあり、】
阿含経を縁として見惑・思惑〔しわく〕を断じて二乗となる者もあり、
【観経等の九品の行業を縁として往生する者もあり。】
観無量寿経等の九品の修行を縁として、極楽往生する者もあり、
【方等・般若も此をもて知んぬべし。】
同じように方等経や般若経を縁として、その功徳を受ける者もいることは、
【此等は彼々の経々の力にはあらず、】
これらを例として知るべきなのです。これらは、それぞれの経文の力ではなく、
【偏〔ひとえ〕に法華経の力なり。】
ひとえに法華経の力によるのです。
【譬へば民の女〔むすめ〕に王の種を下せるを人しらずして】
たとえば、民衆の娘が王の子供を宿したのを知らない人がいて、
【民の子と思ひ、大臣等の女に王の種を下せるを人しらずして】
民衆の子であると思い、あるいは、大臣の娘が王の子を宿したのを知らないで、
【臣下の子と思へども、大王より是を尋ぬれば】
人々は、大臣の子供と思っていたのが、大王から見れば、
【皆王種となるべし。】
皆、王族と思うようなものなのです。
【爾前にして界外〔かいげ〕へ至る人を、】
そうであるので、爾前の諸経によって、欲界、色界、無色界の三界の外へ至る人を、
【法華経より之を尋ぬれば皆法華経の得道なるべし。】
法華経から、これを見て、その因を尋ねてみると、皆、法華経による得道なのです。
【又過去に法華経の種を殖えたる人の根鈍〔どん〕にして、】
また過去に法華経の仏種を植えた人の中でも、なかなか機会がない為に、
【爾前の経々に発得〔ほっとく〕せざる人々は法華経にいたりて得道なる。】
爾前の経々では、その仏種が育たない人々は、法華経に至って得道するのです。
【是は爾前の経々をばめのと〔乳母〕として、】
これは、爾前の経文を乳母として、
【きさき〔后〕腹の太子・王子と云ふが如くなるべし。】
王妃の腹から生まれた王子を育てさせて、皇太子とするようなものなのです。
【又仏の滅後にも、正法一千年が間は在世のごとくこそなけれども、】
また、仏滅後においても、正法一千年の間は、在世のようではありませんが、
【過去に法華経の種を殖えて法華・涅槃経にて覚りのこせる者、】
過去に法華経の仏種を植えて、法華経・涅槃経で悟りを遂〔と〕げる者もあり、
【現在在世にて種を下せる人々も是多し。】
現在の仏の在世で、仏種を下した人々も多くいるのです。
【又滅後なれども現に法華経ましませば、外道の法より小乗経にうつり、】
また、仏滅後であっても、現に法華経が存在するので、外道の法から小乗経に移り、
【小乗経より権大乗にうつり、権大乗より法華経にうつる人々数をしらず。】
小乗経から権大乗経に移り、権大乗経から法華経に移る人々も数多くいます。
【竜樹菩薩・無著菩薩・世親論師等是なり。】
竜樹菩薩・無著菩薩・世親論師などがその人々です。
【像法一千年には正法のほどこそ無けれども、】
像法時代一千年の間は、正法時代のようでは、ありませんが、
【又過去現在に法華経の種を殖えたる人々も少々之有り、】
過去、または、現在に法華経の仏種を植えた人々も、少しはいるのです。
【而るを漸々に仏法澆薄〔ぎょうはく〕になる程に、】
しかし、徐々に仏法の力が弱くなるにつれて、
【宗々も偏執石〔いし〕の如くかたく、】
偏〔かたよ〕った考えの各宗派への執着が、まるで石のように固くなり、
【我慢山〔やま〕の如く高し。像法の末に成りぬれば、】
慢心の心は、山のように高くなっていったのです。さらに、像法時代も末になり、
【仏法によ〔依〕て諍論興盛〔こうじょう〕して仏法の合戦ひまなし。】
仏法についての議論が盛んになって、仏法の合戦は、止むことがありません。
【世間の罪よりも、仏法の失に依って】
そのため世間の罪よりも、仏法の間違いによって
【無間地獄に堕つる者数をしらず。】
無間地獄に堕ちる者は、数限りないのです。
【今は又末法に入って二百余歳、過去現在に】
現在は、また末法の時代に入って二百余年となり、過去・現在において
【法華経の種を殖えたりし人々もやうや〔漸〕くつ〔尽〕きはてぬ、】
法華経の仏種を植えた人達も、だんだんいなくなってしまったのです。
【又種をうへたる人々は少々あるらめども、世間の大悪人、】
また、仏種を植えた人も、少しは、いましたが、世間の大悪人や、
【出世の謗法の者数をしらず国に充満せり。】
仏教者の謗法の者が数限りなく、国中に充満しているのです。
【譬へば大火の中の小水、大水の中の小火、大海の中の水〔まみず〕、】
たとえば、大火の中の小水、大水の中の小火、大海のなかの真水、
【大地の中の金〔こがね〕なんどの如く、悪業とのみなりぬ。】
大地の中の黄金〔おうごん〕のように、悪業〔あくごう〕のみとなってしまって、
【又過去の善業もなきが如く、現在の善業もしるしなし。】
過去の善業もないようなものであり、現在の善業も意味がないのです。
【或は弥陀の名号〔みょうごう〕をも〔以〕て人を狂〔くる〕はし、】
あるいは、阿弥陀仏の名号をもって、人々を狂わせて、
【法華経をすてしむれば背上〔はいじょう〕向下〔こうげ〕のとがあり。】
法華経を捨てさせ、上の法華経に背き、下の爾前教に向かう罪をつくり、
【或は禅宗を立てゝ教外〔きょうげ〕と称し、】
あるいは、禅宗を立てて教外別伝〔きょうげ・べつでん〕と称〔とな〕え、
【仏教をば真の法にあらずと蔑如〔べつじょ〕して増上慢を起こし、】
仏教を真実の法ではないと軽蔑して、増上慢を起こし、
【或は法相・三論・華厳宗を立てゝ法華経を下し、】
あるいは、法相宗・三論宗・華厳宗を立てて、法華経を下し、
【或は真言宗・大日宗と称して、法華経は釈迦如来の顕教にして】
あるいは、真言宗とか大日宗と称して、法華経は、釈迦如来の説かれた顕教で、
【真言宗に及ばず等云云。】
大日如来の説かれた密教の真言宗には、及ばないなどといっているのです。
【而るに自然に法門に迷ふ者あり、或は師々に依って迷ふ者もあり、】
そこで自然に法門に迷う者もあり、あるいは、師に従って迷う者もあり、
【或は元祖・論師・人師の迷法を年久しく真実の法ぞと】
あるいは、元祖、論師、人師の間違った教えを、長い間、真実の法であると
【伝へ来たる者もあり。或は悪鬼天魔の身に入りかはりて】
伝えてきた者もあり、あるいは、悪鬼や天魔が、その身に入り代わって
【悪法を弘めて正法とをもう者あり、或ははづ〔僅〕かの小乗一途の】
悪法を弘めて、正法であると思っている者もあり、あるいは、わずかな小乗だけの
【小法をし〔知〕りて大法を行ずる人はしからずと我慢して、】
小法を知って、大法を行ずる人を、それは、間違いであると慢心の思いをなして、
【我が小法を行ぜんが為に大法秘法の山寺をおさへとる者もあり、】
自分の小法を行ずる為に、大法・秘法を持〔たも〕つ山寺を奪い取る者もあり、
【或は慈悲魔と申す魔、身に入って三衣一鉢〔さんね・いっぱち〕を身に帯し】
あるいは、慈悲魔という魔が身に入る故に、三衣一鉢〔さんね・いっぱち〕を身に帯して
【小乗の一法を行ずるやから〔輩〕わづかの小法を持ちて、】
小乗の一法を修行する輩〔やから〕が、わずかの小法を持〔たも〕っただけで、
【国中の棟梁〔とうりょう〕たる比叡山竜象〔りゅうぞう〕の如くなる】
国家の仏法の頂点である比叡山・延暦寺の名僧・高僧のような
【智者どもを、一分我が教へにたが〔違〕へるを見て、】
智者たちを、自分の教えと違っているのを見て、
【邪見の者悪人なんどうち思へり。】
邪見の人、悪人であるなどと思っているのです。
【此の悪見をも〔以〕て国主をたぼらかし誑惑〔おうわく〕して】
そのうえ、この悪い見解をもって国主を騙〔だま〕し、惑わして、
【正法の御帰依をうす〔薄〕うなし、かへ〔反〕て破国破仏の因縁となせるなり。】
正法への帰依を薄くさせ、返って国を破り仏法を破る、原因を作っているのです。
【かの妲己〔だっき〕・褒姒〔ほうじ〕なんど申せし后は】
殷の紂王の妃・妲己〔だっき〕、周の幽王の妃・褒姒〔ほうじ〕は、
【心もをだ〔穏〕やかに、みめかたち〔容貌〕人にすぐれたりき。】
心も穏やかであり、その容貌も人に優れて美しかったのですが、
【愚王これを愛して国をほろぼす縁となる。】
愚かな王は、これに溺れて、国を亡ぼす原因となりました。
【当世の禅師・律師・念仏者なんど申す】
それと同じように、いかにも聖僧のような現在の禅師、律師、念仏者である
【聖一・道隆・】
臨済宗の聖一〔しょういち〕、禅宗の蘭溪・道隆〔らんけい・どうりゅう〕、
【良観・道阿弥・念阿弥なんど申す】
極楽寺の良観、念仏の道阿弥、浄土宗の念阿弥・良忠〔りょうちゅう〕などの
【法師等は鳩鴿〔いえばと〕が糞を食するがごとく、】
法師たちは、家の鳩が糞や土を食べるように、末法では意味のない爾前教に執着し、
【西施〔せいし〕が呉王〔ごおう〕をたぼろ〔誑〕かしゝににたり。】
敵国の美女・西施〔せいし〕が呉王を騙したように、人々を騙しているのです。
【或は我が小乗臭糞〔しゅうふん〕の驢乳〔ろにゅう〕の戒を持ちて】
あるいは、糞の臭いの驢馬〔ろば〕の乳のような自分勝手な小乗戒を持〔たも〕って